ユウがなぜか吉村加奈子との関係を寝堀り葉堀り訊いてくるので、仕方なく、ヤツとの思い出でもまた記そうと思う。……はぁ……面倒臭い……。
ええと? まあ、なんだ。僕と彼女は入院中に、親しくなった……というと語弊があるなぁ。う~ん、なんていうんだろう、あの関係。
いや、まあ、一緒に居るには居たんだよ、ずっと。お互い暇な入院患者だからね。どちらも、友達とか自分から作れる性格じゃないし、年も近かったし、暇潰しという意味で、常に一緒には居た。
そうとはいっても、だからってそこに「友達」という関係を当てはめられるかというとそうでもなくて、相手は僕を殺そうとしているわけだし、まあ、友好関係ではなかった。
ただ不思議なもので、時に「暇」というのは、殺すとか殺されるとかそういうのどうでもよくなるぐらいに苦痛なのだ。彼女が本気で僕を殺しにかからなくなったのは、単に、僕が死ぬと暇になるからという、それだけだった。
まあ、なんにせよ、結果として、二人で行動しえているうちに、彼女は僕を殺そうとはしなくなった。「退院する時に殺すかな」なんて物騒な独り言を言っていたけどね。
当然の如く、彼女、鈴音にも面識がある。鈴音はなぜかやたら病院に入り浸っていたからなぁ……。なんか「せ、世話してくれる家族が居ないみたいだから、し、仕方なく、仕方な~く来ているんだから!」らしい。ほぼ毎日の頻度で鈴音は見舞いに来てくれた。
予想はつくと思うけど、吉村加奈子と鈴音の相性は悪かった。元々性格が噛みあわないし、その上、吉村加奈子は本当に性格悪いから、暇潰しに鈴音をやたらからかうのだ。僕とラブラブな関係だと見せて、鈴音に「ふ、不潔よ!」と言わせては楽しんでいた。
で。
鈴音が吉村加奈子に最初に出会った日、僕と鈴音が二人きりになった際、彼女は、神妙な表情で僕に告げてきた。
「あの子、ちょっと微妙だけど、どうやら霊から干渉受けているみたい……」
「とり憑かれているってことか?」
「ううん。……微妙なのよ……なんか。彼女ではない何者かの霊気が体にまとわりついてはいるのだけれど……それは、残り香みたいというか……。本体は、常には彼女についていない……。なんかそんな……。うん……なんか、気持ち悪いの」
「守護霊とかじゃないのか?」
「違う。もっと……悪意的。でも、悪霊かと言われるとまた……」
そこまでで、その日の会話は終わってしまった。鈴音はぶつぶつなにか呟きながら帰宅し……僕は、一人、ベッドで天井を見つめていた。
もし鈴音が言うことが本当だとしたら……あの、死への異様な嗜好みたいなのは、もしかしたら……。
そうは思うものの、吉村加奈子はあれでこそ吉村加奈子な気もするしと……。
僕はもやもやを抱えたまま、その日はまどろみの中に落ちていった。