絵本。
絵本の記憶。
終わりだけが欠落した。
絵本の記憶。
母子家庭。
母親は忙しい人だった。私を養っているのだから当然なのだけれど。
未だによく知らない(知ろうとも思わない)けど、どうやら、母親は代表取締役と呼ばれる役職に就いているらしい。
そのためか、プライベート中だろうとなんだろうと関係なく、母親には電話がかかってきた。
そう。いつだって。
少ない時間の隙を縫って絵本を読んでくれても。
最後まで行く前に、いつも電話で中断された。
字の読めない私は、いつも、主人公が試練に直面したところで待たされて。
悲しい展開のところで、待たされて。
そして、母親はそのまま帰ってこれなくて。
また、次の日は、お金にあかせて違う絵本を読んでくれて。
また、途中で放棄されて。
主人公はまた試練に直面したまま止まってしまって。
字の読めない私の中の世界の主人公は、幸せになることはなくて。
悲しくて。
悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて。
絵本をいやがったら。
母親も悲しそうな顔をして。
怒られて。
少ない時間を貴女のために使っているのよと言われて。
黙って。
また、話を聞いて。
でも、終わらなくて。
終わらない。終わらない。終わらない。終わらない。終わらない。
終わらない物語は、酷く悲しい。
救いが無い。
気持ちが悪い。
ふと、思った。
私の人生も、もしかしたら、このまま止まるのじゃないかって。
母親に終わらない話を聞かされて。
翌日もまた終わらない話を聞かされて。
それが永遠に続くのじゃないかって、思って。
成長した今となっては、そうじゃないことは、理性では分かるのだけれど。
でも。
やっぱり、終わりが見たくて。
終わらせて、ほしくて。
でも、ぽっくりと、自分で気付かないうちに、死んで、終わってしまうのは怖くて。
終わるなら、自分で、終わらせたくて。
自分で、自分を殺したかったけれど。痛いのは、やっぱり怖かったし。
終わらなくて。
やっぱり、終われなくて。
じゃあ、他人の終わりを見ようと思ったけれど。
人殺しは、いけないことで。
終わりを望まぬ者に、終わりを与えるのは、残酷なことだと知っているから。
我慢して。
でも。
あいつが現れたから。
あいつが……現れちゃったから。
私は……。
私は――