「それで……僕は……」
「? 式見君? どうしたの?」
「い、いえ……あれ? おかしいな……」
目の前で首を傾げる「春沢」という看護師に向かって、僕は苦笑する。しかし、その笑いはかなり無理があった。
なぜなら、僕の眼からはとめどなく涙が流れていたからだ。
「式見君……ちょっと、どうしたのよ」
春沢さんは慌ててしまう。当然だ。彼女は僕のプロフィールや、事故の様子を聞いていただけなのだから。
僕はここ最近の生活と、そして事故の時のことを話して。事故の時のことを……話して。自分が意識を失った時点のところまで話して……そして……。
そして……。
「う……うぅ……」
「ちょ、ほ、ホントにどうしたの? あ、誰か、呼んだ方が……。ごめん、精神ケアを怠って尋問みたいなことしたから……」
「ち、違うんです。違いますから……大丈夫ですから……」
「大丈夫って……貴方、だって、凄い泣いているじゃないの」
「いえ……だ、大丈夫です。自分でも……よく、分からなくて。自分でなんで自分が泣いているのか……全然……分からなくて……」
「…………」
本当に分からなかった。事故のことを思い出したら……なぜか、涙がこみあげてきて。しかも、それは、多分、自分の記憶があるところの情報からではなくて。
でも、じゃあ、なんで自分が泣いているのかは分からなくて。
「ごめんなさい……春沢さん……」
「いや……あ、謝られると困るのだけど……。ったく」
春沢さんはそう面倒そうに言いながらも、傍で僕が泣き止むのをただじっと待ってくれていた。
「うく……う……」
自分が何故泣いているのか、全く分からなかったけど。
でも、これだけは確信していた。この涙を流すことは絶対、悪いことじゃないって。むしろ、ちゃんと泣かなきゃ駄目だって。なぜか、そんな風に思えて。
「う……あぁぁぁ」
だから僕はその日、思い切り泣いた。何が悲しいのか分からなくても、でも、ただただ、思い切り、泣いた。
この涙で何かが救われてることを祈りながら、ただただ、泣いた。
個室のベッドと枕はその日もイヤに柔らかくて。でも、不思議と、僕はそれ以上に柔らかくて温かいものを頬に感じたことがある気がしていた。