「どうしろっていうんだよ……」
とりあえず夜の公園を飛び出したはいいものの、俺は途方にくれていた。
タナトスと「三十分以内に容れ物を用意しないとゲームオーバー」という約束をしたはいいものの、しかし、どう動いていいのかまるでわからなかった。
公園の傍で滞空して、考え込む。
「……容れ物って……なんだよ。魂を……収めるもの? んなもん、人間とか、生物とか、そういうことだろうがよ……」
まさか、適当に一般人殺して持って来いとでも言っているのだろうか? ……ありえた。アイツなら、そんな指令、気軽にするだろう。しかし……本当にそれしかないのか?
「なんか……ひっかかるんだよな。容器……容器……」
俺はつい最近……というか、身近で、人間以外の容器を見た覚えがある。
なんだったか……。ええと……。人間じゃないけど……魂が……。
「どうしろっていうんだよ……」
とりあえず夜の公園を飛び出したはいいものの、俺は途方にくれていた。
タナトスと「三十分以内に容れ物を用意しないとゲームオーバー」という約束をしたはいいものの、しかし、どう動いていいのかまるでわからなかった。
公園の傍で滞空して、考え込む。
「……容れ物って……なんだよ。魂を……収めるもの? んなもん、人間とか、生物とか、そういうことだろうがよ……」
まさか、適当に一般人殺して持って来いとでも言っているのだろうか? ……ありえた。アイツなら、そんな指令、気軽にするだろう。しかし……本当にそれしかないのか?
「なんか……ひっかかるんだよな。容器……容器……」
俺はつい最近……というか、身近で、人間以外の容器を見た覚えがある。
なんだったか……。ええと……。人間じゃないけど……魂が……。
「あ」
そこで俺は思いついた。
そして、同時に向かっていた。
「ちくしょうっ! 結局戻るのかよっ!」
残り27分。
目指すは我が家……神無鞠亜の家、化け物屋敷だ。
*
「鞠亜あああああああああああああああああああああああああああ」
「ちょ、え、な、なに!?」
思いっきり叫びつつ鞠亜の部屋に飛び込むと、彼女は着替え中だった。
完全に下着姿。
……知るか。
俺は構わず鞠亜に詰め寄る。
「容れ物! 容れ物かせ!」
「は、はあ? ど、どうでもいいから、とにかく一旦部屋から……」
「お前の下着や素肌に興味はねえ! いいから、容れ物あるだろ!」
「な……。…………。……ない。ないわよ、そんなの」
なんか怒ってしまった。……ああ、もう!
「こっちがシリアスな状況にいる時に、ラブコメ空気を出すんじゃねえ!」
「ツーン……」
「ああ、分かったよ! 鞠亜の体は最高だ! こう、メリハリはないけど、それがそそるよなっ!」
「…………」
駄目だった。褒め言葉を間違えたらしい。
……なんだこれ。俺、なにしてんだこの状況で。
「ええと……ま、鞠亜は綺麗だって! マジで! ぶっちゃけ、オレもたまにドキっとする!」
「そ、そう? えと……いれものね? 霊体のってこと? あるわよ、もちろん!」
なんか上機嫌になった。女って……一体……。
まあそんなことはいい。
俺は本題を切り出す。
「幽子を思い出したんだ! アレは……鞠亜が作ったものだろう!? だったら、ああいう感じのボディは、まだストックがあるんじゃねえかと……」
「ああ、なんだ、そういうのが欲しかったわけ? 分かったわ。えと……ほら、そこにあるでしょ」
鞠亜が指差す方向を見る。
壁に、一体の、マネキンのような……。それにしては妙に人間味を感じさせる、メイド服を着た、蒼い長髪の綺麗な女性の人形があった。
思わず目をぱちくりする。
「えと……あれ、幽子と同じようなものなのか?」
「ええ、そうよ。中身は入ってないけど」
「…………」
「どうかした?」
「いや……なんていうか、幽子の等身を想像してたから。なんか、面食らったというか」
目の前にあるメイド服の人形は、普通に美人女性だ。
ふとあることに気付き、訊ねてみる。
「えと……幽子のヤツはこれ、知ってるのか?」
「え? ああ、もちろん知らないわよ。彼女はアレでいいの。ちっこい体しか無いって言い張って、あっちの体に入れておくのが面白いじゃない」
「ひ、ひでぇ」
幽子……完全にイジメられ対象だった。哀れ。まあ、俺もアレでいいと思うけど。あの性格でも、あの体だから、微笑ましいのだ。更正したら大きいのに入ればいい。
「じゃあ、これ、貰っていっていいか? ちょっと必要なんだ! 頼む」
「……まあ、いいわよ。入れるもの決まってなかったしね」
「……っと、でも俺、どうやて運べばいいんだ、これ」
「ああ、ちょっと待って。ん……と」
鞠亜は机から札のようなものを出すと、それに念を込め、ぺたりと人形の腕に貼り付けた。
途端、人形が、目は虚ろなままで動き出す。
「おお?」
「一時的に思念入れたわ。リョウについて行けっていうだけの簡単な指示だけどね。中になんか入れる時は、その札剥がしてから入れてね。ああ、あと一これは体の機能なんだけど。その体は、中身の霊体関係なく、私と、リョウの命令には逆らえないわ。これでどんな霊体入れても大丈夫よ」
「おお、了解! よし、じゃあ、いくぞ!」
俺は人形に声をかける。オレのように全部すりぬけて空を飛んで、とはいかないため、鞠亜に部屋の窓を開けてもらい、そこから人形を外に出す。
人形は俺を見定めると、スタスタと、無表情のまま歩いてくる。うん……これなら……なんとか、間に合うだろうか。
「サンキュな、鞠亜!」
俺は鞠亜に礼を告げると、人形をつれて来た道を戻り始めた。
どうも……時間は、意外と余りそうだった。
ことここに至って、一つ、妙な思考が頭を掠める。
(タナトスのヤツ……鞠亜がこれ持ってるの、知ってたんじゃねえか?)
「…………。……いや、まさかな」
そうだとしたら、あんな悪者ぶる意味が分からないし。気のせいか。
「ちゃんとついてこいよー、メイド人形」
「…………」
メイド人形は無表情でただただ俺についてきた。
「…………」
不謹慎にも、鞠亜が本気で作っただけあって、すげぇ美形だなと気付いて、妙にドキドキしてしまった。
「……体があったら、軽くいたずらしてたかもしれん」
ちょっとだけ、幽霊で良かったと思った。すまん、藍璃。
*
〈く……貴様、まだ本気じゃないな……〉
「あはははは、いやいや、キミもやる方だよ。楽しいなぁ。こんなに緊張感のある戦いは、何年ぶりだろう」
〈戦い? ……戯言を。貴様は……遊んでいるだけだっ!〉
「戦いなんて、所詮は遊びじゃない」
〈……ふざけるな!〉
公園に戻ると、タナトスと……戦乙女もといリエラ・クレインとかいう霊が、すんげぇーハイレベルな戦いを繰り広げていた。
どれぐらいのレベルかというと……、
「わー、オレとあの二人の間に、孫悟空の一巻と最終巻ぐらいの力の差を感じるー」
正直かなり自信失うわ。最強の悪霊とか名乗っているのが、すんげぇー恥ずかしい。
リエラが凄い動きをするのは分かるんだけど……タナトスはタナトスで、手から禍々しい黒い霊気を放出したり、それを剣のカタチにしたり、ビームのようにして放ったりと……もう、漫画の世界の住人だった。しかも終始笑顔。あんだけのことしているのに、確かに本人の言うように、それは遊びの域を出てないようだった。
ボンヤリと公園の入り口でそれを見守っていると、タナトスはこちらに気がついて、ニコッと無邪気に微笑んできた。
「わーい! リョウー!」
「はしゃぐな! 軽く片手でリエラをあしらいながら、満面の笑み浮かべてんじゃねえ!」
どんだけ最強なんだこいつ。
「残念だなー。間に合っちゃったのかぁ、リョウ」
「まあな」
「まあ、約束は守るとは限らないけどねっ! アハハハハハハハ!」
「…………まあ、そうだな」
「あれ? 怒らないのかい、リョウ」
「怒るとこなのか? だってお前、別に本気で言ってなかったろう、今の。お前は約束を守るよ。性根腐ってるけど、今回の約束は反故にするようなキャラじゃねえだろ、お前」
「……やっぱりリョウは変わってるねぇ」
「お前に言われたかぁない」
タナトスはなぜかニヤリと微笑む。悪どい顔だ……ホント。
「俺、お前、大嫌い」
「アハハ、なんだい、急に。そりゃタナトスはこういう性格だからねぇ。慣れてるけど」
「違う。欺瞞の中で生きているヤツが嫌いなんだよ。けっ、嘘つき野郎が」
「……嘘、ね。そう見えるかい?」
「……いや、まあいい。とにかく、ほれ、つれて来たぞ、容れ物」
話を変える。タナトスは片手でリエラをあしらいつつ、こちらに近付いてきた。
当然リエラの攻撃のとばっちりが俺にも向かいそうな距離だったのだが、タナトスはそれさえも配慮しているようで、オレにもメイド人形にも、リエラはまるで近づけてなかった。
〈く……化物がっ!〉
俺もそう思うよ、リエラ。
タナトスはニコニコしながらメイド人形を観察すると、何も説明してないのに、「よいしょ」と、札をはずした。
「じゃ、そろそろ飽きたし、入れちゃおうか」
「出来るのか?」
「チョー簡単♪」
タナトスは笑顔のままでそう言いつつ……次の瞬間、ギラリと目だけを狂気に染めた。
背筋に悪寒が走る。
〈な……〉
リエラが次の攻撃を仕掛けて来たその時だった。タナトスの体から延びた影のような黒い霊気が大量の蛇のようににょろにょろと空中を這い、そうして、リエラの体に絡みついた。
そのまま、ぐぐぐと、タナトスの方へとリエラが引き寄せられていく。
〈き……さ……まっ!〉
リエラは苦悶の表情を浮かべていた。……ここに来て、なんだか、唐突に、自分達が悪者のような気がしてきた。
別に、正義のために戦っているつもりなんかじゃなかったが……。幽霊と言えど、女の子が苦悶の表情を浮かべていると、ちょっと心が痛んだ。特に、このリエラに関しては……恐らくだけど、あの像に姉さんを重ねて、そこを安住の地とし、自分の居場所を守ろうとしていただけのようだし。
確かに大迷惑ではあったものの……「悪霊」と括るのはなんだか違う気もする。
「話し合いをしようとしないで……力で解決しようとしたのは……俺達も同じ、か」
「? どうしたの、リョウ」
「いや、なんでもねぇ」
タナトスの霊気は完全にリエラを捉え、メイド人形に向かって着実に引き寄せていた。
その光景を、何をするでもなく見守りながら……オレは、嘆息していた。
(まだまだだな……俺も。力が全てじゃねえって、漫画やドラマじゃよく言うし、俺もそう考えていたつもりだったけど……。こういう場面では、結局力に頼っているな)
藍璃の顔が思い浮かんだ。
なぜか……悲しそうな顔をしている藍璃だった。
あいつなら……このリエラとかいう女を、説得出来たかもな。
タナトスを見る。
……力の権化、か。こいつは間違いなく最強の存在だ。少なくとも、俺の敵に回ることがあったら、俺は絶対に勝てないだろう。
だけど。
なんとなく、藍璃なら勝てるんじゃないかと思った。どうしてそう思ったのかは分からない。
(案外、いつか、藍璃みたいなヤツが、こいつをこてんばんに懲らしめてくれるかもな……)
それはちょっと楽しみだ。
くくくと笑っていると、タナトスはこちらを訝しそうに見た。
「なんだ? 何を笑っている」
「いいや、別に」
「……。……まあいい。そろそろ、作業も終わるぞ、リョウ」
そう言われて、リエラとメイド人形を見る。
〈く……お、ぼ……えて……ろ!〉
リエラはタナトスを睨みつけてそう叫ぶと同時に、メイド人形の中に吸い込まれていった。
途端。
「……っ!」
メイド人形の眼に、生気のようなものが宿る。そして、ぎこちなく動き、少しハスキーな声を出した。
「な……んだ、これはっ!」
「おお……」
あ、そうか、そうなるよな。なんか俺、今の今まで全く考えていなかったけど。
その。
自分の姿と状況を確認して愕然とするメイドさん(中身が戦乙女)の完成だった。
…………。
……く。ごめん。
笑える。
「あは……アハハハハハハハハハ! 傑作だね!」
タナトスが高笑いをしている。いつもは疎ましく思うそれだが、今回ばかりは俺にもその気持ちが分かった。
俺も思わず笑いをこぼしてしまう。こんだけシリアスな状況なのに、それはあんまりだと思いつうも……耐えられない。
「く……くくくくく」
「っ! き、貴様らっ!」
どうやら、リエラも、「自分が笑われているらしい」ことには気付いたらしい。憤怒の形相をして、俺に飛び掛ってきた! が。
「っ、な、と、あ」
人形の体では当然霊体たる俺を透けるし、その上、どうも意識と身体能力がまるで乖離していたせいか、なにもないところで転ぶメイド。
「……こ、れは」
「アハハハハ! リエラ・クレイン! 今のキミは、普通の女の子でしかないよ! その躯体は特別高い身体能力を持たないし、霊力も外に漏らさないからね!」
「なん……だと」
絶望に染まる……メイドさん。メイドさん。……くく、やっぱ笑いが止まらない。なんだこれ。すげぇ面白い。今の今まで高等存在だったヤツが、メイド服着てぽかーんとしているのだ。それに、多分この体は、メイド服なことからも、鞠亜のお手伝い用としてでも開発されたんだろう。戦闘力なんてあるはずもない。それどころか、危ないことしないように、一般人よりもそういう能力を制限されてさえいるかもしれない。
リエラが呆然とする中、タナトスが俺を振り返る。
「さて、リョウ。あとはキミの好きにしたらいい。鞠亜に頼めば、あとはもうどうとでもなるよ。鞠亜の干渉なしには、この体からは出られないからね。外から事前にじっくり弱らせてから取り込むもよし。下僕として蹂躙するもよし。好きにしなよ。タナトスからのプレゼントだよ♪」
「趣味の悪ぃプレゼントだな。まあ、ありがたく受け取るけど」
「く……? だ、誰が貴様なぞの命令を!」
リエラが立ち上がり、俺を睨みつける。どうやら、彼女なりに状況を理解したらしい。
……困ったな。とりあえず家に持ち帰らないといけないんだけど……。
俺が悩んでいると、タナトスは急に「ふぁー」と大きく欠伸をした。
「悪いんだけど、リョウ。タナトスもう眠いから帰るね」
「はい? いや、ちょ、これ――」
「じゃねー」
俺の制止虚しく、タナトスはスタスタと公園から出て行ってしまった。な……なんてマイペースな野郎なんだ。いや、分かってたことだけど。仕事は確かに終わったけどさぁ。
でも、そうなると、自然……。
「…………」
この敵意むき出しのメイド(リエラ)と二人きりになるわけで。
一応……その、歩み寄ってみる。見せろ、藍璃精神!
「あのぉ。その、とりあえず自己紹介でも。俺は御倉……」
「去れ」
「……え」
「去れ」
「……いや、あの、キミも連れて帰らないといけないんだけど……」
「……元に戻せ。この体から出せっ!」
「えと。……あ、ああ、そうするにしても、家に行かなきゃ無理だ」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙。そして。
「去れ」
「…………」
譲歩失敗。くそ……このメイド、どこまで反抗的なんだ……って。
そういえば。この体って……。
一つ思いついて、こほの咳払い。そうして、「命令」してみる。
「帰るぞ、リエラ。ついてこい」
「だから去れと――。!?」
途端、彼女の足が俺に向かって歩行を開始する。うむ……上手くいったみたいだ。
リエラはさすがに戸惑っていた。
「な、なんだこれはっ! 体が……勝手に!」
「俺の命令は拒否できねーんだよ、その体」
「な、なんだと! く……。こんな屈辱……っ! このまま生き恥を晒すぐらいなら、いっそ舌を噛み切って――」
「命令その2。自傷行為は絶対禁止」
「く――」
結果、すんごく「無念」という顔をしながら俺についてくるメイドさんが出来上がった。……なんだこれ。意外すぎる状況だ。
「屈辱っ!」
メイドさん、すんげー悔しそうだった。今にも泣き出しそうだった。……まあなあ。一種の神様みたいなもんだもんなぁ、中身。しかも遥か昔から存在するもの。……そりゃ悔しいわな。
しかしそうは言っても……なんか、ここまで表情硬いと、それはそれで気になる。
とりあえず公園を出て、てくてくとリエラがついてくるものの……表情から「死んだ方がマシだ」という感情がありありと見てとれた。うう……なんかいたたまれない。
「……えと。命令。笑顔、笑顔」
「っ!」
途端、表情が勝手に満面の笑みになるリエラ。すげぇ笑顔だった。そして、なんか壮絶だった。目が……目が、怒りの炎に揺れている!
「こ……ろ、す。……こ……ろ、す。……こ、……ろ、す」
「…………」
結果。
暗闇の中でメイド服を着た女性が満面の意味で「ころすころす」呟きながら歩いているという、とてもサイコな状況が出来上がってしまった。
「え、えと、やっぱり笑顔なしでよし。解除」
「……ふぅ、ふぅ」
「…………」
……あ、なんか、ちょっと面白くなってきた。
というわけで。
「これは……もしかして、幽子に次ぐいじり対象の完成じゃね? うん。そうだ。決めた。取り込むの中止。しばらく遊ぼう」
「な――」
「というわけで、これからよろしく、リエラ。嬉し恥ずかし、メイド生活の幕開けだぞ!」
「き、貴様――」
「命令。『大好きですご主人様』。全力で復唱」
『
大好きですご主人様!』
「……く」
「……。……貴様は……この手で……必ず……」
「『ご奉仕させていただきます』」
『ご奉仕させていただきます』
「くく……」
「っ~!!!」
みるみる表情が険しくなるリエラを見て、ひでぇことしていると分かりつつも、笑いが抑えられない。
そうして、帰宅途中、俺はずっとそうやってリエラをいじっていた。
家につく頃にはすっかり、リエラの目的は姉さま云々から「御倉了を殺す」にすりかわっていたが……まあ、それでいい。
だって。
一つのものに執着して何百年も過ごすなんて……つまらない人生じゃないか。
そろそろ、新しい目標や感情が湧いても、いいじゃないか。
…………。
藍璃は……藍璃は、ちゃんと、俺のことを忘れてくれただろうか。俺のことで、悲しんでばかりいないだろうか。
そんなことを考えていると、リエラの「執着」が、なんだかとても悲しいものに見えたから。
リエラがぶつぶつと「殺す……殺す……」と俺に暗い視線が向けながら呟いているのを見て、ふっと微笑む。
そうして。
鞠亜の屋敷の前まで来て、俺は彼女を振り返り、笑顔で告げてやった。
「ようこそ、リエラ・クレイン。弾かれた者達の住処……化け物屋敷へ。今日からキミも、ここの住人だ」
「…………」
こうして。
とても仲間とは呼べない関係性のメイド(殺意持ち。というか殺意以外なし)を家族に迎えて。
俺の「触れる幽霊への道」は、なかなか前に進まないまま、次のステージへと移行するのだった。